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alovelog

続けられるよう頑張ります。

レコンビン「ねぇ、秒速5センチメートルって知ってる?」3

(コンビンとの再会)

放送:3番線、ベトナムホーチミン方面、ホーチミン行き電車が到着いたします。
   この電車は雪のため、しばらく停車します。

三上大勝:コンビン…

 コンビンは、そこにいた。

三上大勝:すごい。
コンビン:そう? 普通のPKだよ。
三上大勝:PK? 初めて決まった。
コンビン:うそ。絶対決まったことあるよ。
三上大勝:そうかな。
コンビン:そうだよ。
     それから北九州戦のFK、私が蹴るから入る保障はないんだけど、よかったら蹴らせて。
三上大勝:おしい。

三上大勝:ありがとう。コーナーのバナー空いてたんだ、すごく。
コンビン:どうかな?
三上大勝:今まで出したバナーの中で、一番おいしい。
コンビン:大げさだなぁ。
三上大勝:本当だよ。
コンビン:きっと帳簿が寂しかったからよ。
三上大勝:そうかな。
コンビン:そうよ。あたしも稼ごうっと。うふ。
三上大勝:移籍、もうすぐだよね。
コンビン:ん、4日にもう。
三上大勝:マジかぁ。
コンビン:そうなんだ。私も悩んだんだけどね。
三上大勝:帰れなくなっちゃったもんね。(※札幌に)

ゲアン会長:そろそろ閉めますよ。
      もうベトナムリーグは開幕まで時間もない(11日開幕だそうな)ですし。

三上大勝:はい。
ゲアン会長:こんな感じですから、(契約がらみでは)お気をつけて。
二人:はい。

―駅を出て

コンビン:見える、あの壁?
三上大勝:手前の壁?
コンビン:ん、5枚の壁。ねぇ、まるで北九州戦みたいじゃない?
三上大勝:そうだね。

 その瞬間、永遠とか、心とか、魂とかいうものがどこにあるのか分かった気がした。
 半年間生きてきたことすべてを分かち合えたように僕は思い、
 それから次の瞬間、たまらなく悲しくなった。
 コンビンのそのぬくもりを、その魂を、
 どのように扱えばいいのか、どこに持っていけばいいのか。
 それが僕には分からなかったからだ。
 僕たちはこの先もずっと一緒にいることはできないと、はっきりと分かった。
 僕たちの前には未だ巨大すぎるベトナム市場が、茫漠とした債務超過が、
 どうしようもなく横たわっていた。
 でも、僕をとらえたその不安は、やがて緩やかに溶けていき、
 半年あとには、小野伸二の柔らかなボールタッチが残っていた。
 その夜、僕たちは宮の沢の脇にあった小さな納屋で過ごした。
 古い毛布に包まり、長い時間話し続けて、いつの間にか眠っていた。
 朝、動き始めた地下鉄に乗って僕はコンビンと別れた。

コンビン:あの…三上大勝くん。三上大勝くんは、きっとこの先は大丈夫だと思う!絶対!
三上大勝:ありがとう。コンビンも元気で!手紙書くよ!電話も!

 コンビンへの完全移籍金をなくしてしまったことを、僕はコンビンに言わなかった。
 あの契約の前と後とでは、世界のなにもかもが変わってしまったような気がしたからだ。
 札幌を守れるだけ力が欲しいと、強く思った。
 それだけを考えながら、僕はいつまでも、窓の外の景色を見続けていた。




…こんな話があったとかなかったとか(ないから)

桜花抄1 http://d.hatena.ne.jp/alovesun/20140107/1389106630
桜花抄2 http://d.hatena.ne.jp/alovesun/20140107/1389109183
桜花抄3 http://d.hatena.ne.jp/alovesun/20140107/1389109838 ←イマココ
秒速5センチメートル http://d.hatena.ne.jp/alovesun/20140107/1389141275