闇風呂で息を吸って吐き、思考を流す
暗くした風呂が好きで、よく入る。
寝てしまうと危ない。寝るのは目的ではない。
目に入る明るさや家の中や外の色々な音、そうしたものをなるべく取り除いた上で、湯船に浸かる。
じわりと身体とお湯の温度差を皮膚に感じ、肉に浸透して、水圧は腹部から胸部を押してくる。
瞼が落ちるに任せ、半目、眼球は知らんけど少し上向きなのか、下半月からぼんやりと風呂に漏れ入る明るさが見えている。
呼吸に意識をやると、浅く、最低限の呼吸になっている。
ゆっくり、鼻から胸を膨らますように、あくまでゆっくり息を吸う。
水圧に押されているのにやや逆らうよう、吸っていく。
ゆっくりだと吸うのがしんどくなったあたりで腹を膨らますようにひと押し吸い切る。
止めずに吐く。鼻から吐く。身体、呼吸器の開きが戻るに任せ、吐く。水圧も感じながら吐く。更に筋力を使って、吐き切る。
止めずに吸う。ぺしゃんこになった身体に空気が入ってくる。吸うというより、入ってくる。
これを繰り返す。
色々と自分の人生や、気がかりなこと、今日の洗濯、最近の仕事、ゲームとか配信してみたいとか、何か知らんけど一発あててぇとか、腹が出てること、運動が続かないこと、そうした雑念の一つ一つをネットに書き散らしたい欲。それを否定したい気持ち。そういうのが浮かんでくる。
呼吸を楽しんでいると、集中しているためか、雑念はあまり湧かない。やめると湧く。
一つ一つをそうか、そうだな、うん、そうだねと、緩やかに大人の厳しさで、認めるかのように、流していく。省みない。必要なことなら、また思うだろう。
自分の中に湧き出てくる雑々とした念を気持ちの小川、現実の闇風呂に流して、また水シャワーを浴びる。
水シャワーを浴びれば風呂のあとの汗はすぐに引く。
タンスから部屋着を出して着る。さらさらだ。
ソファに腰掛けて半目になる。
下半月の右の側から、三百万円程の札束が見えてきた。
俺は本当に、お金が欲しいんだな。
組んでいた足、足に挟んでいた左手を解いて、お茶でも淹れやんと、台所に向かった。
了