alovelog

続けられるよう頑張ります。(雑な)料理、サッカー見に行った時のこと、ランニングなどが大体の話題だと思います。

国策落語:それぞれの万歳

(国策落語ってのはどんなもんか、俺も一生懸命考えてみた)

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えー、ほんとにね、本日はお日柄こそ雨で暗くて、灯火管制で暗い上に足元悪い中よく集まって下さって、ありがたい限りでございます。足元悪いって言ってもね、お国の戦況なんかラジヲで聞いての通りの大躍進。地に足がつくどころかもうどっか飛んでっちゃうよみたいなところでございますし、灯火管制つったってね、何するものぞ。いつも心はあったかいし「さうだ!一億火の玉だ!」っつってもっぱら燃えてますからね。燃えてきたぞ!おっかさん!あああんた、こんな夜にやめておくれよ。うるせぇ俺の竹槍を喰らえ!なんてこと言ってたらウチんとこのガキが起きてきやがりまして、お父ちゃん、何を食うの?僕おなか空いたよ。なんてことをね、抜かしやがる。そうじゃなくておっかさんの腹に俺の竹槍をだな…みたいな事を言おうとしたら何ですかね、国を守る御霊に申し訳立たなくなって、いやわたくしのは勃ってるんですけどね、ともかく、あの、こんな私の落語会にね、こんなにご参集頂けるなんて、私にも召集令状が来たのかしらって感じですね。ハレだぞ。どうだ見たか!みたいな。まぁ実際の私は近所じゃ「口だけ達者な生意気なガキだ」ってんで鼻つまみ者だったんですが。

ええ、それじゃあね、全くまとまらないんで、これ、どうなってんですかね。収録だー、特高の皆様もいらしてるぞーってんでちょっと緊張しちゃったのかな?そんなに見ないで下さいよ、帽子も取らずにおっかない……ともあれ初めて参ります。

ええ、ここいらでも全く働きもしなければお国の役に立つでもない、まったくもってどうしようもないこんな噺をしては小銭を恵んで頂くあたしみたいな輩がね、いるんでございます。そんな長屋でございますから、まぁ繋がりの端っこには露助も一人住んでまして。ウラルくんって言うんですけど、ホントなんでもありなんですね。私意外と仲良くやってんですよ?ウラルくんと。まぁお互いに金がないなか寿司食いねぇピロシキ食いねぇってもんで。最近じゃすっかり物資も厳しくなってきたんで、釣ってきた鮒を丹念に焼いて、なんだかわかんねぇ米と鮒と赤い汁を煮込んだ日露鍋なんてあたしらの間では呼んでましたけどね、まるで203高地の血の赤だ。とか、二人共世代じゃねぇっつーの。ほんと千島樺太交換条約なぁみたいな話してたらすごい顔で睨まれたことがあって、あれは肝が冷えたな~……それはいいんですけど、あ、非国民呼ばわりはやめてください。わたくし、気持ちだけはね、身体はヒョロヒョロ枝切れの如く、目と頭は悪すぎて一寸先も見えやしないってんですけども、まぁお国をね、こんな僕でも生かしてくれるこのお国については、それはもうほんとに、感謝してるんです。信じてください。

で、まぁある日ですよ。こんな無産階級のそのまた下の、石の下で丸まってるダンゴムシみたいなあたしですから、昼まで例によって寝てたんです。そしたら突然

ドンドンドーン!ドンドンドーン!もしもーし!スパシーバ!特高ですよー!って、露助んとこの扉を叩いてる。これはあたしも驚いちゃって、いや、言うんだ。特高って言ってるよ。ってんで。まぁ露助の奴は日がな寝ているあたしと違って仕事でちょいちょい出て歩いてるみたいで、それが癇に障ったのか、連れられてっちまったんですよあいつ。

ただね、あの、特高二人で捕まえてんですけど、ロズウェル事件?なんかあの写真*1の二人の逆バージョンですよ。真ん中のウラルくん、全然デカイのほんとに。ロシアってすげぇわ。って思ったんですが、私もそいつとは普通に付き合いがありますから、心配と興味とがあって、特高の館…特高の館ってなんですかね。ともかく建物のね、裏手の軒下に隠れてみたんですね。

バシーン!バシーン! すごい音がしてきて、あ、これが噂に聞く特高の拷問なんだなって、よく聞いてたらバシーン!ハラショーロシア!バシーン!ハラショーロシア!って合いの手が入ってて、ああなるほど、こうやって特高の破れ竹刀に祖国への愛を叫ぶ事で耐えてるんだな。すごいなつってたら、また一組ロズウェル事件みたいな不釣り合いな特高二人が異人さんを捕まえてきてまして、まぁどっちが捕まえられてるかわかんないんですけど。こうなってくると頑張れ特高ぐらいには思いますね。しばらくすると別の部屋の鉄格子窓から聞こえてくるんですよ。

バシーン!星条旗よ永遠なれ!バシーン!星条旗よ永遠なれ!

あ、そうなの?そっちなの?つって、いやそもそもアメージンググレイス!なのか星条旗よ永遠なれ!なのか、どっちかも知りませんけど、いやそもそもそうなの?ってのもありますが、案外律儀に、ねぇ?バシーンのあとなんて、餅つきで言ったら水つけて餅返すぐらいの間しかないのに、星条旗よ永遠なれ!って滑舌もよく。私だったらねぇ、セイジョーキヨ、エイエンナレェって訛っちゃいますよ。すごいもんだ。

ハラショーロシア!星条旗よ永遠なれ!のステレオに驚いてたら、別の部屋からはバシーン!毛沢東万歳!バシーン!毛沢東万歳!、こっちじゃバシーン!ゴッドセイブザクイーン!バシーン!ゴッドセイブザクイーン!大変なことですよ。3Dサラウンドだ。何chなんだって。まぁホントね、オランダのが無いじゃないかって言われてもね、そんな都合よく長屋にABCD包囲網の当事者国の人間が住んでるわけでもなくですね、いや、オランダだったらこういうときどういうの?ってのが解らないとかじゃないんですよ?ともあれそんなこんなで私はズタボロにされたウラルくんをね、こいつは見上げたもんだってんで、家で介抱しに連れて帰ったんですけどね。

……これがね、どうも見られてた……みたいで。闇夜に光る、目が2つ。

ドンドンドーン!起きてるかー!出てこい!特高だー!って。昼まではね、寝かせてくれたみたいなんですけど、私の場合は完全に例の写真ですよ。ブラーンつって。

始まりますよね。バシーン!バシーン!目ン玉から火花が飛び散るんですけど、気をしっかり持って、私も叫んでみるんですよ。死にたくないから。バシーン!ハラショーロシア!バシーン!ハラショーロシア! ん、もうねぇ、全然痛いし死にそう。バシーン!星条旗よ永遠なれ!バシーン!星条旗よ永遠なれ!どうもね、特高の人も殴る竹刀に力が入ってるみたいで。今となってはわかるんですよ。そらなんとなく捕まえた私みたいなもんが、ロシアだー、アメリカだー、って敵国の言葉で自分を奮い立たせようってんですから。おかしいなぁ~おかしいなぁ~どうしてかな~って思ってたんですけど、もうこっちも頭おかしくなっちゃってますから、毛沢東万歳!ゴッドセイブザクイーン!聞いたやつはなんでも言ってみましたけど、どうにもしっくりこなかった。

まぁ私がどんなに頑張ってもね、その強大な敵国の誇りであるとかそういったもんが降ろしきれなかったのか、そもそも身体の作りが違うのか、一応最後は万歳万歳つって叫んでみたけど、私を殴る特高さん、目は血走って顔はゆでタコ、握る竹刀はそいつの手の豆が破れて血に塗れてるなんていう状況じゃそらちょっと万歳言っても聞いてもらえるわけもありません。薄れゆく意識の中で、なんでこうなったのかなぁ。初手万歳だったなぁ。失敗したなぁって思ってもあとのまつり。文字通りボロ雑巾にされて、日暮れ頃の薄暗い道に、特高の詰め所みてぇなところからぺいって吐き出されて、ウラルくんに拾われて一命をとりとめたあたしは大陸に渡り抗日パルチザンとして活動していくことになるんですけど、それはまた、別の話。

 

あの、えーと、

 

おあとがよろしいようで……(壇上に特高が駆け上がる足音と悲鳴)

*1:※有名な写真ですがロズウェル事件の写真ではないです。